プロジェクト・オーガス

ソ連製コンピュータの歴史に関する情報は英語ですら乏しいのが現状で、ましてや日本語の史料などほとんど皆無に等しかったわけですが、最近になってついに日本にも、その方面の歴史を精力的に掘り下げているかたが現れました。水城徹氏です。

ソヴィエト連邦でコンピュータ技術がなかなか発展しなかったのは、技術者たちの才気や力量が足りなかったからでも、開発資金が乏しかったからでもありません。岩上安身氏の「ペレストロイカとコンピューター」で読むことのできるように、1950年代から猛威を振るうようになった政治的な抑圧により、伸ばせるものも伸ばせなくなったということが、最大の問題だったのです。

もしそれがなければ、ソ連はいったいどのようなコンピュータ技術を発展させていたでしょうか。「ペレストロイカと〜」に登場するBESM-6や、過去に水城氏がメモしているSETUNなど、西側とはまったく異なるコンピュータ世界を開花させたかもしれない独創的な試みが、ソ連ではいくつも不遇のまま潰えていきました。水城氏が先日紹介したプロジェクト・オーガスは、そのなかでもとくにショッキングなものといえるでしょう。実現していればソ連ARPANETより早く国家規模のコンピュータネットワークを生み出し、究極の産業オートメーション化に突き進んでいたかもしれない―――そんな驚くべき構想が、実現寸前に挫折するにいたった顛末を記しています。