ZX Spectrumの版権タイトル一覧

配布許可の下りているZXスペクトラム市販ソフトの管理団体・ワールド・オブ・スペクトラムが、興味深い資料を公開しました。

アーケード移植、出版関係、アニメ関係、コミック関係、映画関係、テレビ番組関係、音楽関係、ブランド関係、人物関係、スポーツイベント関係、その他移植、といった順に整理されているのですが、圧倒的多数を占めるのはなんといってもアーケード移植。しかもその総数は半端ではなく、なんと200本以上に及びます。ファミコンでも概算160本強といったところなので、いかに多いかお分かりいただけるでしょう。アーケード基板には遠く及ばないこの非力なマシンに、よくまあこれだけ揃ったものだと、感心するやら呆れるやらです。

海外製パソコンにおけるアーケード移植のやる気のなさは頻々語り草になるところですが、MSX以下の性能しかないZXスペクトラムの場合はやる気どうこう以前の問題で、大半はゲームとして成立させるだけで精一杯といった態。本当にクリアできるのか疑わしいものがごろごろしています。

しかしそうはいっても、さすがに200本もあるとなれば、なかには完成度の高いものも埋もれています。今回はそういった、ZXスペクトラムの底力を垣間見せてくれる移植ソフトたちをいくつかご紹介しましょう。


スペースハリアー (1986 Elite Systems Ltd) [48K]


1980年代中盤に「ボンジャック」「戦場の狼」など、ユーザーに人気の高い移植作を多く手がけてきたキース・バークヒル氏の会心作。地平面の斜角変化まで再現しでいながら、動作はびっくりするほど軽快で、スピード感もアーケード版以上 (ちょっと速過ぎるくらい)。ブロックカラーゆえの見づらさはどうしても残りますが、セガマークIII版とほとんど同時期にリリースされていることを考えれば、とんでもない再現性であるといえるでしょう。当たり判定がやや厳しすぎる点だけが残念です。

彼はここで培った3D技術をさらに発展させ、後年「アフターバーナー」「ギャラクシーフォース」といった無謀きわまりないタイトルの移植まで実現してしまいます。配布許可は残念ながら先日取り消されてしまったのですが、スピード感と3D表現技術に関してはこれらも同様に驚愕ものです。もっとも画面がごちゃごちゃしすぎてしまって、視認性とプレイアビリティの面で厳しい仕上がりになってしまっているのですが。


サンダーブレード (1988 US Gold Ltd) [48K/128K]


技術力でいえばこちらも凄い。セガマークIII版は一体何だったのかという感じです。面構成は一応アーケードと同じで、動作は多少ぎこちないものの奥行き感はばっちり。先の「アフターバーナー」や「ギャラクシーフォース」に比べて画面がすっきり整理されていて、ゲームとしてのポテンシャルも相対的に高い―――と思うのですが、問題はジョイスティックとキーボードを同時活用しなければならない操作系をいかに体得すればよいのかです。むりやりジョイスティックだけで操作するモードも一応ありますが、専用ジョイスティックか何かあればなあ。





モトス (1987, Mastertronic Added Dimension) [128K]


発売元のマスタートロニク社は、2〜3ポンド (約500〜750円) の激安テープソフトで英国パソコンゲーム市場を席巻した有名なソフトパブリシャ。この「モトス」はそこからリリースされた数少ないアーケード移植のひとつですが、内容は意外に良心的で、アーケード版の旨みをしっかり保った作りになっています。オリジナル画面比との差はそつなく吸収していますが、ラウンドによっては若干のアレンジも。そのほか細かい差異はいくつか認められますが、この価格でこれだけ消化できていれば言うことはないでしょう。




飛翔鮫 (1989 US Gold Ltd) [48K]


縦スクロールシューティングがほとんど全滅気味ななか、もっとも手際よくまとめられているのがこの一本です。本質を突いた巧みなデフォルメで、画面は似ていなくとも見事に「飛翔鮫」らしさを体現しています。オリジナルとのもっとも大きな違いは3段階しかパワーアップしない点ですが、難度が低く設定されているため、相対的にちょうとよいバランスで遊ぶことができます (オリジナルの愛好者には物足りないでしょうけど)。キャラクタの移動やスクロールも滑らかで、弾丸の見やすさにも配慮が行き届いているなど、とにかく無理のない仕上がりを心掛けている。わずか2ヶ月で開発されたとは思えない丁寧さです。

なおスペクトラムジョイスティックにはボタンがひとつしかないため、ボンバーは一定時間ショットを押しっぱなしにして発射することになるのですが、これが意外とストレスにならない点も評価できるでしょう。

ドラゴンスピリット (1989 Domark Ltd) [48K/128K]


おそらく「飛翔鮫」に次いで出来のいいシューティングがこれ。こちらはデフォルメもせずによく頑張ったなあという感じで、やはり滑らかな動作が好印象です。とはいえ、

  1. 画面が左右スクロールしないため思わぬキャラクタが強敵になる
  2. ジョイスティックが1ボタンしかないためスペースキーで地上弾を発射しなければならない
  3. 一面ごとに長時間のテープローディングがある
など、問題点もいろいろ。あと後半に行くに従って作りがいい加減になっていくような気もしますが、それでも及第点は上回る出来だといえるでしょう。




ハード・ドライビン (1989 Domark Ltd) [128K]


ドラゴンスピリット」をリリースしたドマーク社は、アタリゲームズ作品の移植を数多く手がけていたことでも知られるソフトハウスです。その彼らが成し遂げた、まさかの快挙。8ビット機でこのゲームを動かしてみせた技術力にはただただ驚嘆するしかありません (実はコモドール64版も出ているのですが、完成度はスペクトラム版のほうが高い)。もちろん完全移植というわけにはいかず、秒間フレーム数が大きく落ちるために動きはガクガクですが、それでもプレイに耐えないというほどではありません。プレイアビリティを減退させているのは、むしろセンタリングをいちいち眼で確認しなければならないハンドル操作のほうでしょう。これのおかげでゲームプレイは相当厳しいものになっています。その他の点では細部までよくこだわった入魂のプログラムで、もちろんリプレイモードも用意されています。


チェイスH.Q. (1989 Ocean Software Ltd) [48K/128K]


「ハード・ドライビン」も確かに凄いのですが、いわゆる擬似3Dレーシングのなかでは、「チェイスH.Q.」が頭ひとつ抜き出た存在感を放っています。そのダイナミックでスピーディな走行感は、さすがに原作には及ばないとはいえ、当時の8ビット機のものとしては間違いなく一級品。アップダウンも酔うほど巧みに演出され、ともかくも気持ちよく走らせてくれます。ただ体当たりシーンは少し難しすぎるかな。あとPSGを駆使したサンプリングボイスが、わずかとはいえ用意されているのが嬉しいところです。

プログラマのひとりであるビル・ハービソン氏は、この前年に「W.E.C.ル・マン」の移植にも関わっています。「チェイスH.Q.」のプログラムはその延長線上にあるものといえるでしょう。「ル・マン」のほうもなかなか魅せてくれます。


オペレーションウルフ (1988 Ocean Software Ltd) [48K/128K]


たいがいのガンシューティングは迫力を優先しすぎるあまり画面が混乱しがちなのですが、そんななかで「オペレーション・ウルフ」だけは大小のキャラクタを効果的に描き分け、手堅くも小気味よいプレイ感覚を提供してくれます。ガンシューティングとしてはいささか地味すぎるという見方もあるかもしれませんが、先の「飛翔鮫」にも通じるスペックを見据えたデフォルメが、このソフトでも確かに光っています。






天聖龍 (1990 Storm Software) [128K]


スペクトラムユーザーの間で一番人気の横スクロールシューティングといえば、「Rタイプ」です。たしかにあれも力作ではあるのですが、極彩色の描画にこだわりすぎていて、日本人の目からみれば明らかにプレイアビリティを疎かにしているといわざるをえません。これと正反対に、単色ながらスムーズな動作と、ゲーム内容の濃さを売りにしているのが「天聖龍」です。

スペクトラム版は、ゲーム展開を敢えてゆっくりに抑え、かわりに雑魚敵の耐久度を大幅に上昇させました。これによって、胴体の配置をどう活かすかという戦略性が一段高まり、本家とはまた違った面白さが増幅されています。反面プレイ感覚がいくらか間延びしてしまったことは否めませんが、スペックを考えた適切なアレンジは高く評価したいところです。


ロッドランド (1991 Storm Software) [128K]


「天聖龍」を手がけたストーム・ソフトウェアのアーケード移植第2弾。オリジナルに対する愛情が「天聖龍」以上にひしひし伝わってくる素晴らしい内容で、これこそスペクトラムにおける最高のアーケード移植といっていいでしょう。『Your Sinlair』誌においてはアーケード移植史上前例のない95点という高評価を獲得しました。

ほぼ白黒で統一されたゲーム画面はまるでゲームボーイのようですが、このほうが無理にブロックカラーを多用するよりも明らかに自然であり、結果的にオリジナルの雰囲気がうまく保たれているといえます。動作面の滑らかさは特筆もので、キャラクタたちは実に活きいきと動き回り、アーケード移植ならではの操作ストレスをほとんど感じさせません。アトラクション画面もできるかぎり再現されていています。ここまでやっておいてゲーム中BGMがないのは残念ですが、要所要所で流れる完全オリジナルネーム入れのBGMは、PSGながら原曲より秀逸といえるほどの出来。「天聖龍」もそうでしたが、タイトル画面に「FREE PLAY」と表示する心意気は伊達ではありません。

他の海外メーカー移植にはないこだわりぶりをそこかしこから感じる一本ですが、残念なことにストーム・ソフトウェアのリリースは、この次の「ダブルドラゴン3」が最後となってしまいました。

かんたんにできるZXスペクトラムのエミュレーション

スペクトラムのゲームをプレイするもっとも手軽な手段は、ZX32エミュレータ (Windows) を使用することです。私が作成した日本語化パッチをここに置いておきます。

たいていのゲームはこのソフトを起動してZIPファイルをドラッグ&ドロップするだけで動作するのですが、以下にいくつか注意事項を記しておきます。

1) ZX32で使用するイメージファイルは以下のような種類に分かれています。

  • DSK: ディスクイメージ。ZX Spectrum +2/+3専用なので省略。
  • Z80: メモリイメージ。起動時間ゼロなので、軽く試してみたい場合にお勧め。ただしデータの追加読み込みができないので、うまく動かない場合もある。
  • TAP: 旧型テープイメージ。比較的高速に読み取りできるが、ローディング方式が特殊な一部のソフトで読み込みに失敗することがある。
  • TZX: 新型テープイメージ。どんなソフトも確実に読み込むことができるが、ローディングにはかなりの時間を要する。
できるだけTZXを使用するのが無難です。待ち時間が耐えがたい場合は [Alt] + [*] で最高速モードにしてください。[Alt] + [/] で元に戻ります。

2) ゲームによっては「オプション」の「ハードウェア」でデフォルトモデルを設定する必要があります。「ZX Spectrum 128」にしておけば基本的に問題ありませんが、48K用ソフトは「ZX Spectrum 48K」もしくは「ZX Spectrum +」でないと動作しないことがあります。

3) ZXスペクトラムには「Sinclair Interface II」と「Kempston」という2種類のジョイスティック規格があります。ほとんどのゲームは起動後にどちらを使うか訊いてきますので、事前に「オプション」の「入力」で、「エミュレートするジョイスティックの種別」を設定しておいてください。とくにどちらが優れているわけでもないので、通常は「Sinclair Interface II」で問題ありません。