二代目ワンチップ2600

アタリ通の人ならご存知でしょうが、Atari VCSのゲームを127本内蔵した「TV BOY」というコントローラ型ゲーム機が、1994年頃から日本でも出回っていました。そう、あれも実は、VCSの機能をワンチップに集約することで実現したものなのです。もっとも「TV BOY」はアタリになんら許諾を得ていない海賊版のクローン機ですから、内蔵チップも当然リコーのそれとは別物です。

ケヴィン氏の解析記録を読むと、これがまた実に奇妙なチップで、厳密にはワンチップ2600とは呼べないものであることが分かります。彼は「TV BOY」のチップで本物のVCS用カートリッジを動作させる実験を行いました。そしてその結果、多くのソフトが物理的に破壊されてしまい、かろうじて動作するソフトも、スプライトの表示が滅茶苦茶になってしまうことをつきとめています。ようするにこのチップは、本家の代用品として用いることをまったく想定していない、ワンチップ2600とは似て非なるものだということになります (にも関わらず、ヨーロッパではこのチップにカートリッジスロットをくっつけた、非常に紛らわしいVCSクローン機が出まわっていました。実際にカートリッジ損壊の被害も報告されています)。著作権表記以外は本家そのままだと信じられていた「TV-BOY」の内蔵ソフトも、実際はこのハードにあわせてカスタマイズされた、専用ソフトだったのです。しかし一体、なぜこんな中途半端な互換チップが生まれることになったのでしょうか。単なる技術不足の結果として片付けていいものでしょうか?

ケヴィン氏はもうひとつ、興味深い事実を指摘しています。「TV-BOY」はファミコンと同じクロック周波数で動作しており、カラー情報の生成方式までファミコンと同様だというのです。単なる模倣というより、明らかに「任天堂テクノロジ」に基づくもので、つまりこのチップは、ファミコンVCSの性能を併せ持った、両機の中間にあるようなものだということになります。

こんな形でアタリと任天堂の技術を融合できる企業は、私が知る限りひとつしかありません。台湾の聯華電子 (UMC) です。クローンチップの影に聯電あり。IBM-PC互換機のCPUに詳しい人なら、往年の386/486互換チップメーカーとしてその名前をご記憶だと思いますが、実はそれ以前にも、ゲーム機方面で影に日向にさまざまなクローンチップを開発していた経緯があります。聯華電子はかつてアタリと正式に提携し、ワンチップ版ではないほうのAtari 2600jr.用にチップを供給していました。またいっぽうで、早くからファミコン互換チップの開発にも着手し、1990年代には海賊版ファミコンのチップ供給を一手に担うようになります。「TV-BOY」が市場に登場する少し前には、ファミコンのワンチップ化も達成していました。そう、この会社がなければ、ファミコン互換機の隆盛はありえなかったのです。そういうわけで、私にはファミコンVCSの双方を理解し尽くしたこの会社以外に、このようなチップを作るメーカがあったとは思えないのです。

聯華電子の仕業だとしたら、ファミコンVCSの融合には、何か明確な意図があったはずです。ワンチップファミコン用の部品を転用できるようにしたかったのか、それともファミコン専業プログラマが、あまり労力をかけなくてもアタリに対応できるようにするためか…。本当のところは分かりませんけどね、