圧縮ソフト戦国時代の幕開け〜PKARC全盛期

圧縮プログラムの研究そのものは、コンピュータの歴史が始まった頃から行われていました。ホームコンピュータの時代に入ってからだと、CP/Mユーザーたちが早くからこの方面に着手しており、SQ.COM (1981) やLU.COM (1982) といったソフトがポピュラーな存在になっていました。しかしライトユーザーまでもが圧縮の必要性に目覚めるようになるのは、1985年頃以降のことです。この時期までに北米のパソコン市場ではフロッピーディスクドライブが浸透し、いっぽうでIBM-PC/XT、マッキントッシュ、アミガ、アタリSTといった機種が出そろうにいたって、16ビットパソコン時代がいよいよ本格化しようとしていました。ユーザー間でやりとりされるデータやプログラムのサイズは、こうした状況下で一気に肥大していったわけです。

この当時にはパソコン通信の普及も加速度的に進んでいたのですが、ファイルサイズの大型化は、誰よりもその利用者たちにとって頭の痛い問題でした。いうまでもなく、ファイルが大きくなれば、それだけダウンロード時間 (=課金額) に影響が及ぶからです。より効率的な圧縮ソフトの登場が望まれるなか、システム・エンハンス・アソシエイツ (SEA) 社のトーマス・ヘンダーソン氏は、MS-DOS用ARC (1985) をリリースしました。MS-DOSにはすでにSQやLUが移植されていたのですが、前年にUNIX方面で公開され話題を呼んでいたLZWのアルゴリズムを取り入れたARCは、これらとは一線を画する圧縮率を実現しており、シェアウェアでありながらSQとLUをあっさり駆逐してしまいます。時代の要求にうまく合致したARCは、こうして圧縮/展開ソフトとして初の商業的成功を収めました。

その翌年、フィル・カッツ氏はARCのアルゴリズムアセンブラで書き直し、飛躍的な高性能化を遂げたPKARCを、やはりシェアウェアとしてリリース。同じ頃、ARCより効率的な圧縮アルゴリズムを用いたフリーソフト・ZOOも登場していますが、PKARCはやがてこのアルゴリズムも取り込んで独自に発展を遂げ、圧縮ソフトの定番として、ほとんど独占的ともいえる地位を確立していきます。