レトロ関連雑誌

さて、再びトテナムコート通りへ。ここはしばしば「ロンドンの秋葉原」とも紹介されるイギリス最大の電気街なのですが、実のところそんなに大層なものではなくて、規模的にはせいぜい名古屋・大須程度。しかも軒を連ねているのは、さして割安でもないPC屋やオーディオショップが大半ときています。残念ながら、前述のCEXを除けば、実はあまり好奇心をそそるような場所はないのでした (CEXもどきが他にもあるにはありましたが…あまり存在感がなくて、忘れてしまいました)。

マニアックな店はむしろ、トテナムコート通りの南に続くチャーリングクロス通り方面に集っています。たとえば、UKきってのオタク向けフィギュア/ノヴェル/コミックショップ「フォービドン・プラネット」なども、この近辺にメガストアを構えています。

チャーリングクロス通りは、大書店や古本屋が多い場所でもあるので、旧世代機関連の書籍を漁ってみるのも一興でしょう。トテナムコートの西にも南にも大型店を構えている「ボーダーズ」などは、発行部数の少ない雑誌をチェックするのにも最適です。イギリスでは雑誌と書籍の流通が基本的に別系統化されており、通常の書店では雑誌を扱っていません。雑誌は雑貨屋かスーパー、あるいはニューススタンドで買うものと相場が決まっているので、気の利いたスポットを知っていないと、小部数の雑誌を入手するのは結構大変なわけです (「Edge」誌のレトロ増刊号が、ロンドンでもなかなか入手できないと嘆かれていたのは、多分このためでしょう)。しかし「ボーダーズ」をはじめとする、一部の巨大店舗なら、そのあたりも抜かりありません (「ボーダーズ」は無謀と思えるほど便利のいい書店で、他の意味でもいろいろ驚かされるのですが、ご興味がおありのかたはこのあたりも読んでみてください)。

さて、以前にご紹介した「レトロゲーマ」誌を、私はここでようやく入手することができました。なんでも今年一月に出た創刊号は、あっという間に完売してしまったのだそうで、季刊の予定が急遽隔月刊に変更されたとのこと。いまでは月刊化も視野に入っているという人気ぶりです。部数が少ないうえにその売れ行きでは、そりゃ見つからないわけですね。

もっとも以前に目次だけ見たときには、それほど目新しい記事もないような印象がありました。それがそんなに好評というのがどうも不思議だったのですが、ページをめくってみると、予想外に堅実な編集で、マニア向けにも初心者向けにも偏りすぎない、かなりバランスのとれた内容になっていることに驚かされました。私の購入した第二号は、オールカラー約110ページの構成で、ふんだんな史料を活かしたコモドールの歴史と、8-bit黄金期のゲーム雑誌「CRASH」に関する特集を中心に、ゲーム紹介、コレクター向け情報、エミュレータ特集などが掲載されていました。旧世代機をリメイクしたフリーゲームや、各種エミュレータを収録したCD-ROMが付録で、価格は約1200円。イギリスの物価の高さを差し引いても結構な値段ですが、その価値は十分にあるといえるでしょう。

ほかには「旧世代機風 (二次元) ゲームをWindowsで自作してみよう」という内容の記事が目を惹きました。レトロゲームは単に懐かしむものではなく、ひとつのジャンルである―――そういう認識は、2002年に創刊した「ゲームズ」誌からも覗うことができます。この総合ゲーム情報誌は、毎月誌面のおよそ1/5をレトロゲーム情報に割いていて (今後増ページの予定)、内容的には広く浅くといった感触ですが、ネオジオポケットなどほとんど注目されなかったハードを特集するような懐の深さも持ち合わせています。基本的にビジュアル重視の編集ですが、文面に浮わついたところはなく、さまざまなゲーム機/ソフトの特色や歴史的位置付けを淡々と、かつ簡潔にまとめています。日本の雑誌によく見られるような、思い入れたっぷりの主観評、あるいは現在の視点から無碍に扱き下ろすような、「クソゲー」式記述がほとんどないおかげで、誌面の中心である最新ゲーム情報の中に、読み物として違和感なく共存しています。こういうドライな空気は、日本のリバイバルには見られないものといえるでしょう。

その他の雑誌を見てみましょう。まずレトロゲーム系記事に先鞭を付けた「EDGE」誌ですが、こちらはもともと数ページの連載に過ぎなかったこともあり、上記二誌が頑張っている現状では、すでにレトロ方面の求心力を欠いているといえそうです。それから、このページでも何度か紹介しているRetro Martを連載中の、週刊「マイクロマート」。実物を購入してはじめて気付いたのですが、なんと掲載記事はすべてホームページから検索/閲覧可能なのですね。通して読んでみると、他にも「アミガマート」という連載があるかと思えば、「ワードプロセサの革新」とか「DOSの発展」なんていう興味深い特集を頻繁に載せていたり―――まさに隠れレトロPC誌ですよ、これは。