CTIA/GTIA

アタリVCSの発売を目前に控えた1977年夏のある日、グラスヴァレー・チームは、早くも次なる新型機の開発に着手していました。アップルIIを凌駕する高精度オーディオ/ヴィジュアルのゲームパソコン・アタリ800と、表現力はそのままに低価格化を図ったアタリ400です。アタリVCS開発時の功績を買われてか、今度はジェイ・マイナー氏が中心になってデザインをまとめています。

グラフィクスにほとんどメモリを割くことのできなかったVCSと違って、アタリ400/800では桁違いのメモリ (最高8キロバイト) を消費することが許されていました。これによってついにビットマップグラフィクスの実用化に道が拓けます。しかし前回述べたように、ビットマップ処理はCPUに大きな負担を強いるものでした。そのままでは使い物にならない―――そこでグラスヴァレー・チームとマイナー氏はこれを克服するべく、グラフィクス専用のサブCPUを開発することにしました。ANTIC (Alpha-Numeric Television Interface Circuit) と呼ばれるチップがそれです。これを搭載したことにより、アタリ400/800は同時代のどんなパソコンよりも高速にグラフィクスを処理することができたのです。加えてANTICには、縦横方向のスクロール機能もありました。

そしてこのANTICの制御下に、さらにスプライトを司るCTIA (Color Television Interface Adaptor) というチップが用意されていました (もしくはその改良版であるGTIA - George's Television Interface Adaptor)。チップの原案はマイナー氏によるものですが、実質的なデザインを手がけたのはジョージ・マクラウドという人物でした。残念ながら、彼についての資料は何も残っていないようです。

CTIA/GTIAは、アタリVCSでいうところの「プレイヤ・オブジェクト」を、画面内に5枚まで並べることができるようになっています。またそのうちの1枚を分割して、4枚の「ミサイル・オブジェクト」として活用することも可能です。こうした特徴から、アタリ400/800のスプライトシステムは「プレイヤ=ミサイル・グラフィクス」と呼ばれていました。スプライトをもっとも多く表示する場合には、4体の「プレイヤ」と4発の「ミサイル」という構成になるわけですが、これはTIAのおよそ2倍にあたる枚数です。アタリ400/800では、VCSの倍のプレイヤ数、つまり4人までの同時プレイが想定されていたのです。このことは、4個のジョイスティック端子が標準装備されていることからも分かります。

アタリ400/800のグラフィクス設計は、その後アミーガにも色濃く反映され、ANTICはAGNUS, GTIAはDENISEという、さらに強力なチップへと変貌を遂げています。DENISEでは画面内に8枚までのマルチカラースプライト (16ピクセル幅) を表示することができるようになりました。これは1983年の設計としてはいささか物足りない仕様ですが、その代わりAGNUS側にもビットブリット機能が用意されており、ソフトウェアによる高速スプライト処理も可能になっていたのです。