なぜAVSは評価されなかったのか

AVSが市場の興味を惹かなかったのは、アメリカでは「アタリショック」の傷跡が生々しかったためだというのが通説です。しかしこれはもともと任天堂アメリカの言い分であって、実際のところは商品コンセプトにも明らかに欠陥があったといわざるを得ません。

AVSは任天堂アメリカが考えていたほどには画期的な製品ではありませんでした。ゲームマシンのアーキテクチャに入門者向けコンピュータの性質を被せるという手法には、すでにアタリ・マイ・ファースト・コンピュータインテレビジョン・エンタテイメント・コンピュータ・システムコレコ・アダムなど、いくつもの失敗例があったのです。なかでも、絶好調だったはずのコレコを死に態に追い込んだアダムの惨劇はまだ昨日今日の話で、業界関係者の脳裏には生々しい記憶として残っていたはずです。

つまりAVSは、先人たちがさんざん失敗してきたことを、また蒸し返しにやってきたようにしか見えなかったわけです。いかにアーケードの大御所とはいえ、任天堂だけ例外的に成功しうるなどとは、誰も思いはしなかったでしょう。少なくとも任天堂アメリカは、この時点では光線銃以上の独創性を誇示できていませんでした。どちらにしても、AVSが中途半端にホームコンピュータとしての性質を残したまま走り出していたら、のちのちコモドールやアタリとの住み分けが厳しいことになっていたはずです。あえてコンピュータとしての性質を捨てさること。それは結局、任天堂アメリカの下した最大にして最良の決断となったのです。

[参考]: Pascal Blancaneaux: Le Projet NES AVSに関する情報を提供している数少ないサイトのひとつ。初期のデザイン資料を見ることができる。