幻の「パックマン」カートゥン

全米が「パックマン」ブームに沸いていた1982年から1983年にかけて、海の向こうでアニメ版「パックマン」が放映されていたのをご存知のかたは多いと思います。しかし実際にどんなアニメなのか、ご覧になったことのあるかたはどの程度いらっしゃるでしょうか。実はこれ、放映期間が短かったうえに、現在に至るまでビデオ化もされていないので、アメリカ人にとっても幻の作品になっているようなのです。厳密にいうと、「パックランドにクリスマスがやってきた」という特番だけはVHSテープで発売されたことがありますが、これもオークションでさえ滅多に出回らない稀少品です (冬休みになると稀に再放送されることがあるそうですが)。

放送が長続きしなかったのは、何もアニメそのものが面白くなかったためではなく、ヴィデオゲームとアニメのタイアップによる販促効果が、当時はあまり期待されていなかったためだといわれています。事実ゲームを原作とするアニメは、「パックマン」以降にもいろいろあったわけですが、底なしの衰退に向かいはじめた米国ビデオゲーム産業にとって、その存在は何の救いにもなりませんでした。この種のタイアップが目に見えて成果をあげるようになったのは比較的最近の話で、「ポケットモンスター」の大ヒットに至るまでの長い年月は、試行錯誤の繰り返しに費やされた時間だったとさえいえるでしょう。

パックマン」の制作スタッフを見てみましょう。プロデューサはTVカートゥンの大御所としてあまりにも有名なウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラのコンビ。脚本はやがてアニメ版「メガマン」(ロックマン) も手がけることになるジェフリー・スコット。音楽はポール・ディコルテ。ただし、のちに「パックランド」のステージBGMとして知られるようになるオープニング・スコアは、ホイット・カーティンの手によるものです。カーティンはすでに故人ですが、「フリントストーン」や「チキチキマシーン猛レース」など、忘れがたいカートゥン・テーマを数知れず生み出してきた人物ですね。「パックランド」は、チープなシンセサイザを主体とするこのオープニング・スコアを、音色の雰囲気に至るまで驚くほど鮮やかに再現しています。

ABC放送の土曜朝8:30という、子供向け番組の激戦区でスタートした「パックマン」は、第一回放送から記録的な高視聴率を叩き出し、最高で56%を記録するまでになります。放送は全30回。1982年9月から12月にかけて、まず第一シリーズ (1-27話) が放送され、その好評を受けて翌年同期に第二シリーズ (28-43話) がスタートします。第二シリーズでは、この頃大人気を博していた「ルービック・キューブ」のアニメ版とタッグを組んで、さらなる人気拡大を目指していました (あまり成果は上がらなかったようですが)。

パックマン」第一シリーズ放送開始の数ヶ月後には、近い時間帯で「スターケード」 (CBS) というヴィデオゲームショウの放送が始まり、さらにこれを追ってヴィデオゲーム原作アニメ専門枠・「サタデイ・スーパーケード」もスタート。CBSはこの一時間枠で、五タイトルのアニメ (週替わりで二タイトルずつ) を放送するようになります。1982年から1985年にかけて、土曜日の朝はゲーム関連番組に事欠かない状況だったようです。