VDPの系譜

テキサス・インストゥルメンツのVDPには、RGB対応タイプのTMS9928A/9929Aや、大容量DRAM対応タイプのTMS9118/9128/9129など、いくつかの細かなリヴジョンがありますが、大幅に機能強化されることはないまま終わりました。ですがグッタグ氏の談話によると、テキサス・インストゥルメンツは密かに後継チップの開発を進めていたようです。開発コードネームがAVDPだったこと以外詳細は不明なのですが、これはTMS9938として世に出るはずでした。しかし設計に多くの問題点を抱えており、しかも完成が近づいた頃に北米ヴィデオゲーム市場が崩壊してしまったため、プロジェクトは中止を余儀なくされたそうです。

以降今日に至るまで、テキサス・インストゥルメンツはスプライト機能を持つチップをリリースしていません。しかしVDPは彼らの手を離れ、ヤマハの手で改良されていくことになります。ヤマハ製VDPは、V9938に始まるMSX2系統と、セガとの共同開発による家庭用ヴィデオゲーム機系統の315-5xxxという、2系統に分かれて進化を続けました。MSX系VDPの面影は、わりと最近までアミューズメント機器用のPVDCシリーズに残されていましたが、現行チップはすべてフレームバッファ方式に移行しています。


(実線:上位互換。点線:設計に影響。同じ色彩で表したものはほぼ同等の機能)

図中のヤマハ製V9938とテキサス・インストゥルメンツ製TMS9938は、型番こそ一致するものの、まったくの別物です。テキサス・インストゥルメンツヤマハの間に、VDPに関する技術交流はなかったそうです。

ところでヤマハがVDPの改良に取り組みはじめたころ、グッタグ氏らはフレームバッファの機構を持つグラフィクスチップを構想し、その開発にまい進していました。フレームバッファというのは、いってみればビットマップを高速に処理するための技術です。従来のスプライトは処理速度かせぎの意味合いが大きかったわけですから、これが低価格で実現されるようになれば、将来的にスプライトは不要になるはずという思惑がありました。実際1990年代半ばには、従来型スプライトはほとんど姿を消すことになります。

グッタグ氏らが1986年に完成させたTMS34010、通称GSP (Graphics System Processor) は、IBM-PC互換機のグラフィクス・アクセラレータ用チップとして有名ですが、アーケードでも活用され、「ハードドライビン」 (1989) をはじめとする海外作品で実績を残しています。