Cookie Bear 〜 Cookieの起源

ジョークプログラムに関連して、もうひとつ。

webブラウザなどでユーザー情報を保存する手段として、Cookieというものがあります。なぜCookieと呼ばれるようになったのかについては諸説あって、日本ではおみくじクッキー (fortune cookie) 由来説がよく知られていますが、今日もっとも有力なのは「クッキーベア」と呼ばれるジョークプログラムをルーツとする説です。

1970年のこと。あるところに悪戯好きなIBMメインフレームのオペレータがいました。彼はホストコンピュータから気まぐれに端末をロックアウトして、そのユーザーたちに「クッキーおくれよ」とメッセージを送り、ユーザーが 'cookie' と入力するまでは何もさせない、なんていうおふざけをよくやっていたそうです。

これはアンディ・ウィリアムズが主演する人気バラエティ番組のパロディでした。番組中にはアンディからあの手この手でクッキーを掠め取ろうとする熊「クッキーベア」が登場するコントがあって、これが当時一部のハッカーたちの間でバカ受けしていたのです (ちなみに「クッキーベア」は「セサミ・ストリート」に登場するクッキーモンスターの元ネタでもあります)。

この悪戯の話を聞いて「そういうコンセプトでやるなら、自動化しちゃったほうがいいんじゃないのか」と強く感じたハッカーがいました。クリストファ・タヴァレスというMITの学生です。彼は実際に、当時使用していたMultics (GE-645のOS) でプログラムを組みました。そしてセキュリティの甘いユーザが席を立った隙に起動ファイルに細工して (一行書き足すだけ)、ある時間が来ると「クッキーベア」が起動するようにしたのです。

彼の電脳熊は、5〜10分の不定期な間隔で「クッキーおくれよ」と四度せがみ、それで反応が得られないと「OK, じゃあ失せるとするよ。ダメな野郎だね」と捨て台詞を吐いて消えるというものでした。このプログラムはこっそり外部から呼び出されるため、ユーザーの手元にほとんど痕跡を残しません。その巧妙な仕掛けが評判を呼び、彼の「Cookie Bear」はまたたく間に他のMultics機にも飛び火。PDP-10を始めとする当時の主要なミニコンピュータにも次々と移植されました。タヴァレス氏によると、「クッキーベア」はペンタゴンにまで持ち込まれ、アクセス時の機密保持に応用されたそうです。

UnixにおけるMagic Cookieもまた、おそらくはこうした流れを受け継いで誕生したものなのでしょう。そしてこれが、今日のwebブラウザにおけるcookieの足掛かりとなっていくわけです。

参考: