バベッジのゲームマシン (5)

「機械にチェスをプレイさせてみたい」という研究者たちの願望は、ハードウェアの完成前にチェスプログラミングの方法論が確立されるという、一種異様な事態を生み出しました (前回参照)。しかしこのようなソフト先行の時代は、それほど長くは続きません。ちょうどシャノンの論文「チェスをプレイするコンピュータのプログラミング」が発表された1949年3月に、実用段階に到達したといえるはじめての現代型 (プログラム格納式) コンピュータが、テストプログラムの実行に成功しています。

2種類のコンピュータが、期せずしてほぼ同時にこの快挙を成し遂げました。ひとつは英ケンブリッジ大学EDSAC。そしてもうひとつは、米エッカート・モークリイ・コンピュータ社のBINAC。最初にゲームをプログラムする試みが行われたのは、このBINACでした。プログラマの名はエリザベス・ジーン・ジェニングスENIACの最初のプログラマとなった6人の女性コンピュータ (当時それは計算手に与えられた職業名だった) のひとりです。BINACが稼動した直後の社内レポートに、彼女がチェスやジンラミーのプログラミングに時間を割いていたという記述があるようです。しかしそれらが本当に完成したのかどうかは、いまのところ不明です。