プレイステーション2に左ボタンのジョイスティックを! (Slashdot)

…と書くと、左利きの人の主張みたいに見えますが、もうちょっと根の深い問題です。

ファミコンが普及する以前の時代、パソコンユーザーがよく用いていたゲームコントローラがどのようなものだったか、ご存知でしょうか。こんなのとか、こんなのとか、あるいはこんなのです。分類としては、一応アーケード式ジョイスティックということになるでしょうか。しかし操作感覚はずいぶん異なっていました。

当時のジョイスティックに共通する最大の特徴は、右手でレバーを握り締め、左手でボタンを押すように設計されていたことで、つまり現在一般的なアーケード/コンシューマの配置とは、左右が逆だったわけです。アーケード的触感で大人気を博した、電波新聞社「ゼビウススティック」 (XE-1 for X1, XE-7/77 for FM7/77) でさえ、左ボタンが標準仕様だったくらいですから、いかに左ボタンが当たり前とみなされていたか分かるというものです。

なぜこんなことになったのかというと、パソコン用ジョイスティックの源流が、アーケードではなく、アタリの家庭用ゲーム機・VCS (1977) にあるからです。1980年代初頭から、国内外のパソコン/家庭用ゲーム機メーカーは、このマシンと同じ規格のジョイスティックポート (9-pin/D-sub) を採用しはじめます。当時欧米で1000万台近く売れていた大人気マシンということで、VCSの仕様に汎用性が期待されるようになっていたのでしょう。VCS式のコネクタは「アタリ仕様」と呼ばれるようになり、業界スタンダードとして普及していきます。もっともほとんどの日本人は、それがアタリのどんな機種の仕様を指しているのかよく知らなかったわけですが。

そのVCSに付属するジョイスティックが、そもそも左ボタン仕様だったわけです。「ゼビウススティック」以前のジョイスティックを記憶している人には、このアタリ純正ジョイスティックに見覚えのある人もいるのではないでしょうか? 当時アドコム電子が、これとまったく同じものを、パソコン用「アドコムスティック」として日本でも販売していました (PC-8001などジョイスティック端子のない機種のために、変換コネクタを付けたりもしていましたが)。

その他のジョイスティックも、ほぼ例外なくこのスタイルを参考にしていました。一部には両側にボタンを配置したものもありましたが、右側「だけ」に絞ったジョイスティック/ジョイパッドは、私が知る限り、ヴェクトレクス/光速船 (1982) 付属のもの以前には市販されていません。その後ファミリーコンピュータのブレイクにより、右側2ボタンという新しいスタイルが一気に標準化するわけですが、この逆転現象に付いていけなかった人が、当時はちらほらいたものです。

VCSスタイルでの操作に慣れてしまった人なら、アーケードでも左ボタンでプレイしたくなるのが人情というものでしょう。さいわいにも、当時のコントロールパネルにはレバーの両サイドにボタンを配置しているものが少なくなく、左ボタン派は一応アーケードでもやっていけたのです。

話を元に戻しましょう。要するに、そういう左ボタン環境で育った人が、このSlashdotの記事でぼやいているわけです。「VCS時代の名作コレクションがPS2で出ているのだけど、昔とボタン配置が逆で操作しにくい。使いなれた左ボタンジョイスティックをPS2で使いたいものだけど、どうしたものですかね」

…もし「PC-6001/X1 クラシックゲームコレクション」なんてものがPS2に出れば、同じことを主張したい人が日本にも出てくるでしょうか?