ジェフ・ラスキン氏 逝去

急な訃報に驚きました。癌宣告から他界まで、わずか2ヶ月ほどだったようです。謹んでご冥福をお祈りいたします。

ところでこの記事を読んでいて、アップル入社以前の彼についてあまり知られていないことに、改めて気付かされました。彼は2年前にホームページをオープンし、その頃から折に触れて過去のエピソードを紹介していたのですが、それももしかすると死期を悟った上でのことだったのかもしれませんね。

ラスキン氏が近年綴ったなかでとりわけ興味深いのは、DigiBarnコンピュータ博物館のwebサイトに寄稿した「Merlinとの出会い」というエッセイでしょう。Merlinというのは、ENIACから派生した水爆設計用コンピュータ・MANIACの改良型で、原子力の研究機関であるブルックヘヴン国立研究所において開発されたものです。メモリユニットの設計にはあのウイリアム・ヒギンボザム氏が貢献していたそうで、後日その詳細をご子息から伺ったという話も、エッセイには綴られています。

ラスキン氏は中学生時分に校外見学でこのコンピュータに接し、特別にプログラムを体験する機会を得ました。そしてそれがのちにコンピュータを理解するうえで少なからず助けになったと述べています。もしMerlinと出会わなければ、彼はゼロックスパロアルト研究所接触することもなかったかもしれず、したがってマッキントッシュも生まれなかったかもしれないわけです。

ラスキン氏がブルックヘヴンを訪れたのは、記憶が確かなら1956年頃ということですが、Merlinの完成は1960年頃のはずなので、正確な時期ははっきりしません。しかしいずれにせよ「テニス・フォー・ツー」公開の前後だったことは確かです。市民に開かれた親しみやすい施設であることをアピールしようとしていたブルックヘブン研究所が、こんな形でヴィデオゲーム史のみならずパソコン史にも影響を与えていた事実は、なんとも興味深いといえるでしょう。