NESはかつてAVSだった (FORT90)

今年5月にニューヨークでオープンした任天堂直営店・ニンテンドー・ワールドには、ちょっとした博物館スペースがあり、過去の任天堂を彩ったさまざまな製品たちが展示されているそうです。歴代のゲーム機はもちろん、花札や各種ゲーム&ウォッチまでもずらりと並んで、なかなかに壮観のようですが、注目したいのはアメリカならではの展示物たちです。湾岸戦争でボロボロになったゲームボーイなんていうのはいかにもですね。しかし白眉はなんといっても、アドヴァンスド・ヴィデオ・システム (AVS) が鎮座ましましていることでしょう。

AVSとは海外向けに設計されたファミリーコンピュータの試作型、つまりニンテンドー・エンタテイメント・システム (NES) の先祖にあたるマシンです。1985年1月のCESで発表されたそれは、日本版のファミコンと違い、よりコンピュータ色を強めた革新的な製品としてアナウンスされました。しかし業界の評判は芳しくなく、結局はエンタテイメント寄りに再設計を施され、NESとしてデビューすることになるわけです。

AVSは最初のお披露目いらい人前に姿を見せることはなく、その実態がどのようなものだったのかはよく分からないままになっていました。したがって、カートリッジスロットが日本版ファミコンと同じ仕様だったこと、BASIC用のキーボードが用意されていたこと、ワイヤレスコントローラが特徴だったことなど、これまでは当時の雑誌記事などから断片的な情報を窺い知るのが精一杯のところだったのです。しかしこうして20年ぶりにAVSが出展されたことにより、さらなる詳細を垣間見ることができるようになりました。写真に並ぶ操縦桿型ジョイスティック、光線銃、データレコーダ、ミュージックキーボードなどは、これまで形状さえほとんど知られていなかった周辺機器たちです。NESの基本的なデザインコンセプトは、この時期すでにかなりまとまっていたことが改めてよく分かりますが、光線銃はNESのものとはまったく違って、えらくシンプルというか未来的な形状をしていますね。

キーボードの配列がくっきり分かるのも貴重なところでしょうか。『Beep』1985年4月号によると、AVSのBASIC (Advanced BASIC System) はファミリーBASICとは違うオリジナル仕様で、ゲーム開発エディット機能が強化されているという噂があったそうです。しかしこの写真を見ると、キーボードそのものは本質的にファミリーBASICと同じものだったことが分かりますね。