ユージン・ジャービス インタビュー (way of the rodent)

世界初のスクロールシューティングゲームディフェンダー」(1980) の作者として知られる元ウイリアムスのユージン・ジャービス氏が、いまにわかに注目を集めています。というのも、彼が最近ミッドウェイから独立し、このアーケード不況のご時世にアーケード中心のゲーム会社・Raw Thrillsを立ち上げたからなのですが、その第一作「ターゲット: テラー」はSlashdotの記事によると、実在の土地を舞台にした二人プレイの光線銃ゲームとのこと。あえてアーケードにマーケットを絞るからには、何か彼らしい仕掛けがあるのではないか (「ディフェンダー」にせよ「ロボトロン」にせよ、操作系がかなり独特だった) ということで、期待とその裏返しの不安がともに高まりを見せているわけです。そんな空気の中で行われたこのインタビュー。おもに過去作品に焦点を当てたものですが、往年のアーケードゲームの真髄に迫る内容で、なかなか読ませてくれます。


―――「ディフェンダー」「ロボトロン」「スターゲイト」…どうやってあれほど絶妙なプレイ感覚を実現できたのでしょう? 手応えはものすごくシビアだけど、プレイできないわけではないという。
絶え間ない微調整によるものだよ。スープ作りと似たようなもので。(中略) 「ディフェンダー」は僕の処女作だったんだけど、ゲームを作りたがる子供にありがちなように、当初はものすごい野望を秘めてて、なんでもできるようなゲームを作ろうとしていたんだ。飛行ありの、ドライブありの、地下ありの…みたいな。で、しばらくして、これじゃいつまでたっても完成できないって気が付いたわけさ。あまり詰め込みすぎると『メインディッシュはどれなんだ?』って自問自答せざるを得なくなる」

―――技術的に制限があることが、自分にとってはよかった?
ヴィデオゲームのデザインは、これすべて制限さ。できそうだからって理由だけで、なんでもかんでもやるのは違う。なにか些細な『面白い』部分を見つけて、それをベースに組み上げていく。たとえば『モータルコンバット』や『ストリートファイター2』みたいな格闘ゲームは、せいぜい二次元のライン上で進むか戻るかしかできないわけだけど、こうも単純なフレームワークのなかでも実に多彩な動作ができるっていうことに、ゲームの豊かさが集約されている。バックボーンがシンプルで、世界は狭くても、エキサイティングで濃いゲームを作ろうと思えば作れるって、このトリックから分かるわけさ。あれやこれやとしみったらしく手を出すよりは、二つか三つの要素をとことん突き詰めたほうがいいはずだよ」

「『ディフェンダー』にスクロールを取り込んだのは、スピード感とモーション感を生み出すためだった。最高のヴィデオゲームはすべて、サバイバルに関わるものだよね。サバイバルは人類最大の本能的欲求で、食欲よりも性欲よりも金銭欲よりも強い。ありのままのエネルギーとアドレナリンを引き出し、プレイヤを自然にエキサイトさせるためには、サバイバルストーリィを生み出すことが必要だよ。当たり前のことみたいだけど、自分を殺そうとする心底むかつく悪党どもを、プレイヤが本当に大量に必要とするのは何故なのか、これで説明がつくよね」

「『ロボトロン』は (どこにも逃げ場所がないという感覚で) 本気で汗をかかせてくれる唯一のゲームだと言ってくれる人が多いのだけど、それは僕にとっても同じなんだ」

「PCとかコンシューマのゲームにとくに多いんだけど、何をやらせたいのか把握させてくれないゲームは嫌いだな。ゲームをデザインする側が本質的な面白さを見出せてなくて、プレイヤに思い付きの選択肢を大量に与えて誤魔化そうとしているようなやつ。たとえばバックにも運転できて、エグゾーストパイプの上にもカメラがあって、Gの具合をあれこれ選べて、みたいなね。デザイン側がゲームの要点をしっかり分かってないからって、プレイヤにデザインを投げちゃっているように思えるんだよ。なんだかまるで、一個でも多くのボックスをプレイヤにチェックさせようとしているようなものってあるよね。ああいうの、作り手は全部オプションを体験すれば二年は遊べますよって思っているわけだけど、それより先にこりゃダメなゲームだって見極めるほうが早いって。ゲームのどの面が強烈で面白くてクールなのかをデザイナが分かっていて、自信を持って伝えてくるようなのが好きだな。なんていうか、まあ、スピルバーグが自分の映画でストーリィを伝えてくるような感じで。楽しませてくれて、かつエンタテイナ本人が何をやっているか分かっているっていう感覚が、よく伝わってくるものが欲しいんだ。作り手に身体を委ねられるような安心を感じたいのさ」

「アーケードにこだわる理由は、デザインを自由にできるから。ボタンを付け足したかったら、ドリルで穴を開けて結線すりゃいい。これがコンシューマとなると、標準的なシステムにこだわらなきゃならないだろ。技術的な問題で自分のクリエイティヴィティを曇らせることなく、ゲームをクールにするものが何かを考えたいんだ」
あとジェフ・ミンター氏の「ディフェンダー2000」(Jaguar) を絶賛しているくだりもあります。本質剥き出しの直球勝負を好む彼の気質を考えれば、なるほどと頷けますね。ちなみに彼がここ10年ほどでもっとも過大評価されていると思うのは「Myst」「ウイングコマンダー」のニ作だそうです。