Sorcerer

エキシディは家庭用ヴィデオゲームにはまったく興味を示しませんでした。しかしパーソナル・コンピュータ産業が勃興すると、これにはいち早く呼応し、1978年にZ80ベースのなかなかユニークなマシンを送り出しています。それがここでご紹介するソーサラーです。

日本ではまったく無名のパソコンですが、ソーサラーはROMカートリッジ・スロットを装備したはじめてのホームコンピュータとしてよく知られています。エキシディはこれを介して、BASICやワープロといった基本システムを供給していました (ゲームカートリッジは出していません)。また拡張ユニットを接続することで、アルテア8800互換のS-100バスマシンとして使用することができるという拡張性の高さも持ち合わせていました。白黒ながら精緻なキャラクターグラフィックスも注目に値します。このあたりはアーケード方面で培った技術の賜物だと思いますが、512x240ドットという、当時としては最高の解像度を達成していました (アップルIIは280x192, TRS-80は256x144)。

ソーサラーはアップルIIとTRS-80のほぼ中間、895ドルという価格で提供されました。しかし商業的には大苦戦を強いられています。エキシディは1980年に、CPUをZ80Aに置き換えた後継機・ソーサラーIIをリリースしていますが、旗色の悪さは覆すべくもなく、1982年3月26日に、生産打ち切りを決定しています。こんな感じで、北米市場ではさんざんだったソーサラーですが、意外にもヨーロッパでは思わぬ大活躍を演じることになりました。ヨーロッパではオランダのコンピュデータ・システムズがソーサラーを代理販売していたのですが、彼らは1979年に、オランダ教育放送・TELEACから、思いがけない大口の発注を受けることになったのです。

この当時、イギリス国営放送・BBCは、テレビ放送によるコンピュータ教育の浸透を図るべく、その公認コンピュータ (のちのBBCマイクロ) の策定を急いでいました。TELACもこの動きに感化され、同じように公認コンピュータ計画を推進しようとしていたのです。当初はベルギーのデータ・アプリケーション・インターナショナル社 (DAI) がその開発を請け負っていましたが、なんらかの事情でTELEACの要求を満たせなくなり、その代替として急遽ソーサラーが選定されたわけです。

エキシディ自身は、1980年にはパソコン事業からの撤退を決心していました。しかしヨーロッパでのセールスは順調に伸び続け、ついにコンピュデータ自ら、オランダの自社工場でソーサラーの製造を手がけるまでになります。1983年にIBM-PC互換機路線をスタートするまで、ソーサラーはコンピュデータの主力商品であるとともに、オランダでもっとも有名なパソコンでもあり続けました。ちなみにコンピューデータは、のちに社名をチューリップ・コンピュータに改めています。現在コモドール・ブランドの所有者として知られる、あのチューリップです。