ロンドン 8-bit/16-bit リポート (1)

イギリスのヴィデオゲーム市場は1990年代後半から目覚ましい勢いで拡大を遂げ、現在ではアメリカ、日本に次ぐ世界第三位のヴィデオゲーム消費大国となっています。そしてここでもやはり、レトロリバイバルは商業的に無視できない要素になろうとしているのですが、具体的にどこで何が起きているのか、メディアはなかなか伝えてくれません。8-bit時代、日本はもちろんアメリカとも異なる独特のヴィデオゲーム/ホームコンピュータ文化を築いていたイギリス。その遺産がいかなる形で生き残っているのか、足で見て回ってきました。私の目にした情景を、二回に分けてお伝えします。

レトロショップ事情

ゲーム好きなロンドンっ子をつかまえて「昔のゲーム機なんかを売っている店が、どこかにないだろうか?」と尋ねてみましょう。たいてい真っ先に教えてくれるのが「コンピュータ・エクスチェンジ」 (CEX)、もっと正確にいうと、ロンドン地下鉄地図のど真ん中・トテナムコートロード駅そばにある、中古ゲーム館です。ここはロンドン市内でもっともレトロ関係に気合いを入れている店舗といえますが、ではコモドールやスペクトラムがごろごろしているのかというと、残念ながらそんなことはありません。というよりコンピュータ方面にはほとんど力をいれておらず、私が行ったときには、Acorn Electron (UK政府公認機・BBC Microの弟分) がぽつんと一台、約4000円で売られているのみでした。聞いた話では、レトロコーナーは最近元気がないそうなので、タイミングが悪かったのかもしれません。

コンピュータ方面で何か探すなら、CEXより見逃せないのが、ノッティングヒル・ゲート駅 (トテナムコート駅から地下鉄で一本) の正面にある「コンピュータ・ゲームズ・エクスチェンジ」です。この一画には「ミュージック・アンド・ビデオ・エクスチェンジ」系列の古着屋・中古レコード屋・古本屋などが建ち並び、ちょっとした中古ショップ街の趣を呈しています。「コンピュータ・ゲームズ・エクスチェンジ」もその一軒で、主力ゲーム機の中古ソフトはもちろん、アミガやPCのディスクゲームから、日本ではまずお目にかかることのないコモドール64やZXスペクトラムのテープゲームまで、幅広い品揃えを誇っています。ただし残念ながら、こちらもハードウェアはほとんど扱っていません。スペクトラムからアミガまで共通していえることですが、旧世代パソコンを店先で探すのは、簡単ではありません。街外れに点在する古道具屋や、UK各地に展開する「キャッシュ・コンヴァーターズ」チェーン (質屋兼中古屋) をしらみ潰しに当たっていけば、まあ見つからなくもないですが、ネットオークションとか雑誌の売買欄 (これが意外に活発) のほうが簡単確実です。どうしても現物を物色したい場合も、後述するフリーマーケットに足を運んだほうが効率的でしょう。

さて、両店ともに目を惹いたのは、なんといってもセガ・マスターシステム用カートリッジの充実ぶりでした。NESの中古と流通量が大差ないあたりは、さすが世界随一のマスターシステム大国。セガの面目躍如といったところでしょうか。価格も一本200円からと非常に手頃なので、好きな人にはたまらないでしょう。対照的に肩透かしを食らったのは、アタリ関係です。2600からJAGUARにいたるまで、中古ソフトはそれほど市場に出回っていない感触でした。とはいえ見つかったら見つかったで、一本500円から2000円くらい (プレミア品除く) のものだったので、それほど稀少というわけでもないのでしょう。単純に人気薄なのだと思います。CEXのほうでは、メガドライブ、ドリ−ムキャスト、ネオジオPCエンジンなど、日本製ゲームの中古が妙に充実しているのも興味深かったです。思ったより需要はあるようですね。

とまあ、そんな感じで、両店ともそれほど大きくはありませんが、一度訪ねておいて損のない店であることは間違いありません。

ストリートマーケット

イギリスでは、日曜日にはたいていの店がシャッタを下ろしています。24時間営業を売りにしているスーパーでさえも休業。しかしそのかわり、ロンドン各所で数多くのフリーマーケットが賑わいを見せるようになります。出品傾向は場所によって大きく異なるので、それぞれに違った楽しみがあるのも特徴です。私が訪れたのは、まずインド/パキスタン系住民が多いことで知られるブリック・リーン (オールドストリート駅そば) のマーケット。ここは数あるフリーマーケットのなかでも特に変なものが集まるガラクタ市 (あるいは宝の山) で、200円のマスターシステム (完動・付属品付) をはじめ、なぜか大昔のPC-980118禁ゲームなどにも遭遇しました。どこから流れ込んでくるのやら。

もうひとつはカムデンタウン駅そばのカムデン・マーケット。こちらは若者に人気のファッショナブルなマーケットで、盛況ぶりは祭りさながらです。ここで手に入るものは、衣類、レコード、アクセサリなどが中心なので、8-bit/16-bitリバイバルとは基本的に無関係ですが、コモドールやスペクトラムのシャツなど、いかにもなアイテムを入手するには最適な場所として、一応ご紹介しておきましょう。ちなみに私が見たときは、コモドールが2000円、スペクトラムが5000円ほどしてました。

E-Shirt

カムデン・マーケットのすぐ近くには、トランス族御用達のファッションブランド・Cyberdogの大規模な店舗があります。なにかのテーマパークと勘違いしそうな、過剰なまでにサイバーな施設なのですが、ここで意外にも、レトロゲームフリークの心をくすぐりそうなものを発見しました。米テキサスのHouse of Raveが開発した、Eシャツと呼ばれるものです。


こんな感じに簡単なアニメーションを点灯表示する、超薄型蛍光パネルを施したTシャツで、面白いことにパターン表示の仕組みや雰囲気が、往年のFLゲームそっくりなのです。将来的には、本当にこれでゲームができてしまうのではないでしょうか (意味があるのかどうかはさておいて)。しかしシャツの中に、単四電池4本を収納するドライブユニット/バッテリボックスも仕込まなければならないのは、少々野暮ったいかもしれません。

Cyberdogの通信販売 ("T-SHIRT" 内の "LIGHT TEES" または "LIGHT VESTS") では、また違ったデザインのものも扱っています。こちらのほうが、もっとゲーム寄りですね。というか、Cyberdogのロゴが「テンペスト」の自機に見えて仕方ありません。なおこのEシャツ/ライトウェアシリーズ、日本支店でも入手できるのかどうかは不明です。

レトロ関連雑誌

さて、再びトテナムコート通りへ。ここはしばしば「ロンドンの秋葉原」とも紹介されるイギリス最大の電気街なのですが、実のところそんなに大層なものではなくて、規模的にはせいぜい名古屋・大須程度。しかも軒を連ねているのは、さして割安でもないPC屋やオーディオショップが大半ときています。残念ながら、前述のCEXを除けば、実はあまり好奇心をそそるような場所はないのでした (CEXもどきが他にもあるにはありましたが…あまり存在感がなくて、忘れてしまいました)。

マニアックな店はむしろ、トテナムコート通りの南に続くチャーリングクロス通り方面に集っています。たとえば、UKきってのオタク向けフィギュア/ノヴェル/コミックショップ「フォービドン・プラネット」なども、この近辺にメガストアを構えています。

チャーリングクロス通りは、大書店や古本屋が多い場所でもあるので、旧世代機関連の書籍を漁ってみるのも一興でしょう。トテナムコートの西にも南にも大型店を構えている「ボーダーズ」などは、発行部数の少ない雑誌をチェックするのにも最適です。イギリスでは雑誌と書籍の流通が基本的に別系統化されており、通常の書店では雑誌を扱っていません。雑誌は雑貨屋かスーパー、あるいはニューススタンドで買うものと相場が決まっているので、気の利いたスポットを知っていないと、小部数の雑誌を入手するのは結構大変なわけです (「Edge」誌のレトロ増刊号が、ロンドンでもなかなか入手できないと嘆かれていたのは、多分このためでしょう)。しかし「ボーダーズ」をはじめとする、一部の巨大店舗なら、そのあたりも抜かりありません (「ボーダーズ」は無謀と思えるほど便利のいい書店で、他の意味でもいろいろ驚かされるのですが、ご興味がおありのかたはこのあたりも読んでみてください)。

さて、以前にご紹介した「レトロゲーマ」誌を、私はここでようやく入手することができました。なんでも今年一月に出た創刊号は、あっという間に完売してしまったのだそうで、季刊の予定が急遽隔月刊に変更されたとのこと。いまでは月刊化も視野に入っているという人気ぶりです。部数が少ないうえにその売れ行きでは、そりゃ見つからないわけですね。

もっとも以前に目次だけ見たときには、それほど目新しい記事もないような印象がありました。それがそんなに好評というのがどうも不思議だったのですが、ページをめくってみると、予想外に堅実な編集で、マニア向けにも初心者向けにも偏りすぎない、かなりバランスのとれた内容になっていることに驚かされました。私の購入した第二号は、オールカラー約110ページの構成で、ふんだんな史料を活かしたコモドールの歴史と、8-bit黄金期のゲーム雑誌「CRASH」に関する特集を中心に、ゲーム紹介、コレクター向け情報、エミュレータ特集などが掲載されていました。旧世代機をリメイクしたフリーゲームや、各種エミュレータを収録したCD-ROMが付録で、価格は約1200円。イギリスの物価の高さを差し引いても結構な値段ですが、その価値は十分にあるといえるでしょう。

ほかには「旧世代機風 (二次元) ゲームをWindowsで自作してみよう」という内容の記事が目を惹きました。レトロゲームは単に懐かしむものではなく、ひとつのジャンルである―――そういう認識は、2002年に創刊した「ゲームズ」誌からも覗うことができます。この総合ゲーム情報誌は、毎月誌面のおよそ1/5をレトロゲーム情報に割いていて (今後増ページの予定)、内容的には広く浅くといった感触ですが、ネオジオポケットなどほとんど注目されなかったハードを特集するような懐の深さも持ち合わせています。基本的にビジュアル重視の編集ですが、文面に浮わついたところはなく、さまざまなゲーム機/ソフトの特色や歴史的位置付けを淡々と、かつ簡潔にまとめています。日本の雑誌によく見られるような、思い入れたっぷりの主観評、あるいは現在の視点から無碍に扱き下ろすような、「クソゲー」式記述がほとんどないおかげで、誌面の中心である最新ゲーム情報の中に、読み物として違和感なく共存しています。こういうドライな空気は、日本のリバイバルには見られないものといえるでしょう。

その他の雑誌を見てみましょう。まずレトロゲーム系記事に先鞭を付けた「EDGE」誌ですが、こちらはもともと数ページの連載に過ぎなかったこともあり、上記二誌が頑張っている現状では、すでにレトロ方面の求心力を欠いているといえそうです。それから、このページでも何度か紹介しているRetro Martを連載中の、週刊「マイクロマート」。実物を購入してはじめて気付いたのですが、なんと掲載記事はすべてホームページから検索/閲覧可能なのですね。通して読んでみると、他にも「アミガマート」という連載があるかと思えば、「ワードプロセサの革新」とか「DOSの発展」なんていう興味深い特集を頻繁に載せていたり―――まさに隠れレトロPC誌ですよ、これは。