Odysseyの意外なルーツ

ラルフ・ベア氏をはじめとするオデッセイの開発陣は、アンペックス出身者たちで構成されていたアタリの面々とは実に対照的で、誰もヴィデオ技術や半導体技術について特別な知識を有してはいませんでした。もちろんベア氏はテレビジョンやレーダー用アナログコンピュータのベテラン技術者でしたから、最新のヴィデオ技術など知らなくとも、原理面での不安は感じていなかったと思われます。しかし電気回路からヴィデオ信号を生成するという、家庭用ヴィデオゲームのもっとも基本的な技術について、彼は明らかに具体的ノウハウを欠いていました。それなのにアタリに先んじて特許技術を確立することができたのは何故なのか。実のところオデッセイの開発陣は、ある別の機械をそっくり拝借することによって、ヴィデオ信号生成のための仕組みを手に入れていたのです。その機械とは、ヒースキット社が1962年に発売したIG-62という家庭用テレビのテスト信号発生装置です。

IG-62は5種類のチャンネル周波数に、「ドット」「網掛け」「横線」「縦線」「カラー縦線」「シェーディング線」を表示することができるというもので、内部はリード結線されたダイオードコンデンサなどで構成されています。オデッセイのごく初期の試作機は、この中枢部 (水平同期発生器、垂直同期発生器、RFモジュレータ) に真空管ベースの簡易アナログコンピュータを組み合わせて、移動可能・サイズ可変なドットを表示できるようにしたものでした。

IG-62から借りてきた部品は、試作2号機の時点ですべて、トランジスタ化した新パーツに置き換えられることになります。しかしヴィデオ信号処理の基本はおそらくほとんど変わっていません。8ビット世代の人のなかには、テレビ放送終了時に見られるテストパターンに、なんとなくヴィデオゲームに近い空気を感じ取っていた人がいらっしゃると思いますが、実はあれこそまさにヴィデオゲームのご先祖様だったわけです。

参考: "Videogames: In The Beginning" Ralph H. Baer (Rolenta Press, 2005)