JAKKS TV-GAMES はどこに?

この雑記でも頻繁に紹介している、Jakks PacificTV Gamesシリーズですが、さてイギリスでの取り沙汰ぶりはいかに…と思って探してみたところ、これが意外にもほとんど店頭に置かれていないのです。少なくともゲーム専門店ではまず扱っていませんし、わりと大きめの玩具屋でもなかなか置いていません。どうもゲームマニアや子供たちに需要があるわけではなさそうです。

がしかし、あるところには大量にありました。なるほど、結局この種のゲーム機は、DigiQフライングソーサーのような「大人受けするハイテク玩具」という位置付けに落ち着いているのですね。オックスフォード通りには、そういう方面にとくに力を入れている「ガジェットショップ」支店があり、TV Gamesシリーズのみならず、インテリヴィジョン・ダイレクト・トゥ・TVまで実演販売しています。あああ、インテリヴィジョンのはずなのに、見覚えのある配色、聞き覚えのある効果音…噂どおり、これは明らかにワンチップファミコンの所作です。プラグ・アンド・プレイも悪くないですが、どうせなら新作ファミコンカートリッジとして出して欲しいところですよ…なんてことを考えながらプレイしつつ、ふと横を見ると、こちらにも見慣れないファミコンの画面が。おや、これは。

ついに発見、Dance Mat 3

「ガジェットショップ」は一連の商品だけでは飽き足らず、なんと自社ブランドでもプラグ・アンド・プレイ方式のゲーム機を製造しています。それがこの「ダンスマット3」です。画面を見てあっと驚きました。

これはまぎれもなく、ワンチップファミコン版「ダンスダンスレヴォリューション」こと跳舞毯ではないですか。まさかイギリスに上陸しているとは思ってもみませんでした。もちろん収録曲はイギリス人向けに調整されていて、ラインナップは以下のようになっています。

  • Destiny's Child "Independent Woman (Part 1)"
  • Kulay "Burn"
  • Toto "Africa"
  • Coco Lee "Didadi"
  • Coast 2 Coast "Suavemente"
  • El Sapo "La Bomba"
  • A-ha "Take On Me"
  • Marc Anthony "I need to know"
  • Erasure "Reach Out"
  • Yazoo "Only You"
有名曲が無節操に放り込まれているような印象がありますが、実はどのアーティストにもソニーが絡んでいるという共通点があります。なんとこれ、ソニーから正式にライセンスが供与されている商品なのですよ。

しかしそこまで権利をクリアしておきながら、よせばいいのに余計なものを付け足してしまって、結局胡散臭く仕上がってしまっているのは、どうしたものでしょうね。製品名が「ダンスマット3」となっているのを不思議に思われたかたもいると思いますが、別に過去「1」や「2」があったわけではないのです。これは単に三本ゲームが入っているという意味で、その残り二本というのが、これこれ。あらら、しかも後者は権利問題で闇に消えたテンゲン版ですよ。まあさすがに両者とも、クレジットは消されていますけどね。

それにしても、反射神経を要求するこの種のゲームを足でプレイするのは、「ファミリートレーナー」よりもよっぽど大変でした。というか、後者のほうは、足で操作していたのでは回転と移動を同時に行うのがほとんど不可能です。パニックに陥ります。

さて肝心の音楽ですが、特別手の込んだ作りではありません。どこにでもあるストレートなファミコンサウンドです。まあ少なくとも、いまどきのファミコン音楽を知る人には明らかに物足りないものでしょう。そして、基本的に原曲に迫ろうという意気込みは感じられません。「インディペンデント・ウーマン」あたりなら、サビを聴けばああこの曲かと分かるのですが、「Didadi」などになると譜割の感触から根本的に違っていて、じっくり聴いてもなかなか識別できなかったりします。まあそんなものでも、チップチューンが好きな人なら笑って許せると思いますが…。じつはこれ、一見するとレトロフリーク向けには見えない包装になっていて、困ったことにウェブページにも音質についての言及が一切ありません。別段ファミコンの音になんて興味のない人が、何も知らずに購入してしまったら、さぞかし唖然とすることでしょう。そんなわけで、Amazonなどでは惨々に酷評され、昨年秋の発売当初は約8000円の値が付けられていたはずが、今では3000円以下で叩き売られている始末です。


起動画面 

足跡の数で難易度調整。でも機能していない?

堂々のコピーライト表示
 

中央の黒い塊で覆われているのがワンチップファミコン
 
麟閣頁さんが紹介なさっている本場中国の「動感2000」 (こちらは本当にファミコン用) とは、画面も選曲もかなり異なります。ワンチップファミコン版跳舞毯にも、いろいろと種類があったのでしょうね。

なお「ガジェットショップ」ホームページには掲載されていませんが、現在は二人同時プレイ可能な新バージョンの「ダンスマット3」も発売中です。こちらは5000円ほどだったでしょうか。音楽のラインナップも若干異なるように見えました。それから問題の「ピンボールゲーム」と「ブロックゲーム」は姿を消し、新たにモグラ叩きゲーム (今度は「ぽっくんモグラー」だったかもしれませんが、画面を失念) が収録されています。

玩具市場の8-bit/16-bit

「ガジェットショップ」を超えてさらに西へ歩くと、地下鉄のオックスフォード・ストリート駅に辿り着きます。オックスフォード通りはここで、高級ショッピング街として知られるリージェント通りと交差しているのですが、これを南に折れてしばらく行けば、世界最大の玩具デパート「ハムリーズ」が見えてきます。六階建ての広大なスペースには、当地の玩具とならんで「トミカ」や「遊戯王」カードゲームをはじめとする日本製品も豊富にそろっています。ああ、「ポケットモンスター」ブームはさすがにもう沈静化していました。関連グッズもほとんど見かけません。

キャラクターグッズが主役の日本と比べると、イギリスの玩具店では知的好奇心育成型の商品のほうが目立っています。エレクトロニクスを応用したものとしては、英国版電子ブロックことロジブロックが有名ですね。現在では類似商品もいろいろ出回ってますが、そのなかでも注目したいのは、イギリスの本気ぶりを端的に表しているケンブリッジ大学シリーズ (トイブローカーズ社) です。とくに、本物の電子部品を使ってサウンドエフェクトやレコーディングの仕組みを理解させるデジタルレコーディングスタジオなどは、もはや玩具の域を超越しています。

しかしなんといっても、8-bit/16-bitフリークの目を惹くのは、コンピュータ/ヴィデオゲームの技術を応用した学習機器たちでしょう。この方面は日本だと、セガトイズPICOの独壇場ですが、イギリスにその姿はなく、かわってVTechグループとリープフロッグ社が、二大勢力としてしのぎを削っています。VTechは香港を拠点とするコンシューマエレクトロニクスの老舗で、欧米ではコードレスフォンや家電製品でも有名です。この種のコンピュータを利用した学習玩具の開発には、実は1980年代初頭から取り組んでおり、ファミコン誕生前夜には家庭用ヴィデオゲーム機・クリエイトビジョンを送り出していたことでも知られています。もっともこれは、日本ではチェリコの製品として名が通っているため、VTechの存在は今日にいたるまで知られることなく終わっています。かくいう私も「ハムリーズ」でその製品に触れるまで、恥ずかしながらいまだ現役のメーカだったとは知りませんでした。調べてみると、日本でも三年ほど前に、子供向けPDAで少し話題になったことがあるのですね。

VTechの展開しているArtificial Intelligenceシリーズは、一般的なデスクトップ/ノートPCを強く意識した学習コンピュータです。表示部こそモノクロ液晶ですが、最上位機種のSlim PadDesktop Powerともなるとなかなかの本格派で、アプリケーションはカートリッジやCD-ROMで供給できるようになっており、各科目の教育ソフトほか、アクションゲームやクイズゲームなど、最大120種類のソフトを扱うことができます。ここまでやるならいっそBASICも載せて、本物の8-bitパソコンに仕立てたくなるような代物ですね (いえ、実際に8-bitかどうか確認はしていないのですが、まあそういう感触でした)。

1980年代初頭の欧米ヴィデオゲーム産業は、安価なゲームパソコンの台頭を牽制するべく、コンピュータとしての存在感をアピールしようとしたものですが、クリエイトビジョンも含めてどれも太刀打ちできずに終わりました。それから二十年近い歳月が流れ、子供向けパソコンという市場が空白に戻ってから、VTechは再びこの商品カテゴリに舞い戻り、見事トップブランドの地位を獲得したわけですね。ちなみにArtificial Intelligenceシリーズの開発を推進する米VTechインダストリーズを統括するのは、エミール・ハイドケンプ氏。元コナミ・インク副社長です。

かたやもう一方の雄・リープフロッグの最高責任者は、メガドライブ/ジェネシス最盛期にセガ・オブ・アメリカのCEOを務めたトーマス・カリンスキ氏。リープフロッグはカリフォルニアを拠点とする知育玩具専門企業で、VTechとは対照的に、創業十年に満たない若い会社です。しかしアタリゲームズの出身者を擁するエクスプローラ・テクノロジーズ社を吸収合併するなどして、技術的には申し分のない蓄積を誇っています。日本ではセガトイズと連携し、その主力商品であるココパッドを展開しているので、名前くらいはご存知のかたも多いのではないでしょうか。

子供向けPDAiQuestをはじめ、携帯性を重視した製品が多いのもリープフロッグの特色でしょう。この方面には、Phusion (VTech) やW.A.V.E. Linkシリーズ (Kessel)といった香港勢や、日本でも知られているCybikoシリーズ (これもVTechの傍流) など、競合勢力がひしめき合っており、リープフロッグも苦戦を強いられています。しかし昨年11月に発売したハンドヘルド版PICOともいうべきLeapsterで、再び大きな注目を集めることに成功しました。見ての通り初代ゲームボーイアドバンスを思わせるハードウェア (実は液晶が暗いところまで似ている) なのですが、リープフロッグの集大成ともいうべき製品として、さまざまな期待が寄せられています。

ただし全体的に見ると、こういった種類の学習玩具の人気は最盛期を過ぎ、現在は頭打ちの状態にあるようです。VTechは2001年から緩やかな減益傾向にありますし、いっぽうリープフロッグも、昨年は過去最高の売り上げを達成していながら、今年に入って一転、最悪の赤字と株価を記録。旧製品の価格切り下げを余儀なくされています。

…と、あれれ。ロンドンレポートのはずが、今回はなにやら海外ハイテク玩具事情のような内容になってしまいました。全二回と告知しておいてなんですが、このまま続けるとちょっと長くなりすぎるので、予定を変更してもう一回お届したいと思います。

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