シャープ製MSXの謎

日本でMSX戦線に参加しなかったシャープが、なぜかブラジルでだけHOTBITなるMSXを流通させていたことを、MSX通のかたならご存知かもしれません。シャープがどういう経緯でこのMSXを出すことになったのか、詳しいところはよく分かっていません。というかそれ以前に、どこで写真を見てもシャープのロゴが入っていないので、そもそも本当にシャープ製なのかどうかさえ怪しまれています。シャープ博物館・Oh!石氏の見解に拠れば、


ブラジルのEpcomという会社の製品ということで、このまま信用するとシャープがブラジルの会社にOEM供給していたということになるのですが…。名前も「HotBit」などとパクリくさく、いくらOEMと言えども日本のメーカーがそこまでのことをするかどうか…。恐らく、HotBit1.2なる製品の写真にあるビデオモニターがシャープ製なので、関係があると勝手に考えたんではないかと思いますがねぇ。
とのこと。そういうものかもしれないな、と私も漠然と納得していました。しかし先日Club Old Bitsなるサイトに辿りついて、どうもそこまでいい加減なものではなかったようだということに気付かされたのです。ここはブラジル製MSX関連の雑誌広告をいろいろと集めていて、その中には問題のHOTBITも含まれているのですが、見てみるとどれにもシャープのロゴが克明に記されているではないですか。しかもそのうちの一枚には「HOTBITは最寄のシャープ販売店までご用命ください」(Hotbit estã esperando você no revendedor Sharp de sua cidade) という一文まで添えられています。うーん、どうやら「シャープがブラジルの会社にOEM供給していた」という発想は逆だった、つまりOEM先だと思われていたEPCOMこそが開発元で、そのMSXをシャープが現地の販売ラインに乗せていたということになりそうですよ。だとすれば、いったいなぜシャープは自社のMZシリーズを捨て置いてまで、外部のMSXに梃入れしたりしたのでしょうか? パソコン方面のノウハウを十分に持つはずのシャープが、わざわざ開発を外部の手に委ねた理由もわかりません。謎は深まるばかりです。

だいたいこのEPCOM―――正式名称EPCOM Equipamentos Eletrônicos da Amazônia Ltda.(アマゾニア州エプコム電子機器株式会社)―――というのは、いったいどういう素性の会社なのでしょうか。まずこれからしてよく分かりません。現在もEPCOMという名前を使っている会社は至るところにあるので、そのいずれかに連なっているのかもしれませんが、確たる痕跡は何も見つかりませんでした。

しかし調べを進めるうちに、ひとつだけはっきりしたことがあります。この広告のEPCOMロゴの下の文章―――だいぶ潰れていて判読しにくいのですが、"EMPRESA DE DIVISAO SHARP" (シャープの部門会社) と読むことができます。つまりEPCOMは完全な外部企業ではなく、事実上シャープの一部だったわけです。「HOTBITはシャープのブラジル工場で製造されていた」という、これを裏付ける指摘 (silicium.org) もあります。この工場というのが、どうも地元企業と合弁で設立されたものだったようなのですが、合弁相手がどこだったのかはっきりしていません。もしかするとこれこそEPCOMだったのかもしれませんね。